決算整理仕訳② 減価償却・貸倒引当金【簿記3級 入門講座】

【簿記3級】決算整理仕訳②
はりねずみ

具体的な決算仕訳の内容を解説していきます!

簿記3級の学習を進める上で、多くの学習者がつまずきやすいと言われるのが「決算整理仕訳」です。
決算整理仕訳は合計で約10種類ありますが、中でも特に重要な論点となるのが「減価償却」と「貸倒引当金」です。
この2つの論点は非常に奥深く、理解するためにはしっかりと基礎から学ぶ必要があります。

目次

簿記3級の壁①:減価償却の仕組みと仕訳

減価償却とは?

会社が事業を行うためには、建物、備品、機械装置、車両運搬具といった様々な固定資産が必要です。
これらの固定資産は、通常1年以上という長期間にわたって使用されます。
しかし、時の経過や使用によってその価値は徐々に減少していきます。
例えば、50万円で買ったパソコンの価値は、時間が経つにつれて下がっていくはずです。

「減価償却」とは、このような固定資産の価値の減少分を計算し、その固定資産を使用する期間(耐用年数といいます)にわたって費用として配分する会計処理です。
購入した年に全額を費用とするのではなく、使用期間に応じて費用化することで、より正確な期間損益を把握することができます。

具体的には、購入時の金額(取得価額といいます)から、将来の見積もり価値(残存価額といいます)を差し引いた金額を、耐用年数で割って毎年の費用(減価償却費)として計上していきます。
この費用計上は、毎決算期に行われます。

定額法による計算と仕訳

簿記3級で学習する減価償却の計算方法は、定額法が中心です。
定額法では、毎期同じ金額の減価償却費を計上します。

計算式は以下の通りです。

(取得価額 – 残存価額) ÷ 耐用年数 = 1年間の減価償却費

例えば、取得価額50万円の備品(パソコン)を、耐用年数5年、残存価額0円と見積もった場合、1年間の減価償却費は

(50万円 – 0円) ÷ 5年 = 10万円

となります。

この減価償却の仕訳は、間接法で行います。
間接法では、固定資産の金額を直接減らさず、「(固定資産名)減価償却累計額」という勘定科目を使って、価値の減少分を積み立てていきます。
「(固定資産名)減価償却累計額」は、その固定資産の取得価額から差し引いて表示される「資産のマイナス」の性質を持つ勘定科目です。

1年目の決算時の仕訳は以下のようになります。

借方貸方
減価償却費100,000減価償却累計額100,000

「減価償却費」は、費用の勘定科目です。
今回は、これが増えているため、ホームポジションである借方(左側)に記入します。

費用が増えたとき
損益計算書(P/L)

「減価償却累計額」は、資産のマイナスの勘定科目です。
今回は、これが増えているため、ホームポジションと反対側である貸方(右側)に記入します。

資産が減ったとき
貸借対照表(B/S)

この結果、備品の帳簿価額(簿価)は、取得価額50万円から備品減価償却累計額10万円を差し引いた40万円として表示されます。

取得原価50万円 – 備品減価償却累計額10万円 = 40万円

残存価額が0円でない場合も同様です。
取得価額50万円、耐用年数5年、残存価額5万円の場合、1年間の減価償却費は

(50万円 – 5万円) ÷ 5年 = 9万円

となります。

仕訳は以下の通りです。

借方貸方
減価償却費90,000備品減価償却累計額90,000

「減価償却費」は、費用の勘定科目です。
今回は、これが増えているため、ホームポジションである借方(左側)に記入します。

費用が増えたとき
損益計算書(P/L)

「備品減価償却累計額」は、資産のマイナスの勘定科目です。
今回は、これが増えているため、ホームポジションと反対側である貸方(右側)に記入します。

資産が減ったとき
貸借対照表(B/S)

また、期首ではなく期中に固定資産を取得した場合は、取得した月から決算日までの月数に応じて減価償却費を計算します(月割計算)。

例えば、年間減価償却費が12万円の建物を期中(期末まで3ヶ月)に取得した場合、当期の減価償却費は

12万円 × 3か月 / 12か月 = 3万円

となります。

固定資産売却時の仕訳

使用していた固定資産を売却することもあります。
固定資産を売却する際は、まず帳簿上からその資産(取得価額)と、それまでに計上した減価償却累計額をなくす仕訳を行います。
この仕訳によって、売却時点での固定資産の帳簿価額(簿価)が帳簿から消えることになります。
簿価は、取得価額から減価償却累計額の合計を差し引いて計算します。

例えば、取得価額130万円、減価償却累計額が合計で24万円となっている建物を、簿価106万円(130万円 – 24万円)の状態で110万円で売却し、代金は後日受け取る場合を考えます。
売却時の仕訳は以下の通りです。

借方貸方
建物減価償却累計額
未収入金
240,000
1,100,000
建物
固定資産売却益
1,300,000
40,000

「建物減価償却累計額」は、資産のマイナスの勘定科目です。
今回は、これが減っているため、ホームポジションである借方(左側)に記入します。

資産が増えたとき
貸借対照表(B/S)

「未収入金」は、資産の勘定科目です。
今回は、これが増えているため、ホームポジションである借方(左側)に記入します。

資産が増えたとき
貸借対照表(B/S)

「建物」は、資産の勘定科目です。
今回は、これが減っているため、ホームポジションと反対側である貸方(右側)に記入します。

資産が減ったとき
貸借対照表(B/S)

「固定資産売却益」は、収益の勘定科目です。
今回は、これが増えているため、ホームポジションである貸方(右側)に記入します。

収益が増えたとき
損益計算書(P/L)

簿価106万円の資産を110万円で売却したため、差額の4万円は固定資産売却益(収益)として計上されます。
逆に、売却価額が簿価を下回る場合は固定資産売却損(費用)となります。

期中に固定資産を売却した場合は、前回の決算日から売却日までの期間についても減価償却が必要です。
例えば、前回の決算日から売却日まで2ヶ月経過している場合、まずその2ヶ月分の減価償却費を計算・計上し、現在の簿価を確定させてから、売却の仕訳を行います。

簿記3級の壁②:貸倒引当金の理解と処理

貸倒引当金とは?なぜ設定するのか

会社が「掛け」で商品を販売したり、お金を貸し付けたりすることで発生する売掛金や貸付金などの債権は、必ずしも全額が回収できるとは限りません。
得意先の倒産などにより、これらの債権が回収できなくなるリスク(貸倒れ)があります。

簿記会計では、この将来発生する可能性のある貸倒れによる損失に備えるために、期末に一定の金額を費用として計上する処理を行います。
これが貸倒引当金の設定です。

貸倒引当金は、期末の売掛金などの債権残高に対して、過去の実績などに基づいて将来貸倒れると予測される金額を見積もって設定します。
設定された貸倒引当金は、貸借対照表上では対象となる債権から差し引く形で表示され、資産のマイナスとして扱われます。

貸倒引当金の設定(差額補充法)と期中の処理

貸倒引当金は、原則として期末の決算整理仕訳で設定されます1920。簿記3級では、主に差額補充法という方法が用いられます。
これは、期末の債権残高に基づいて計算した「設定したい金額」と、期末時点で既に計上されている貸倒引当金の残高との差額だけを追加で計上する方法です。

例えば、期末の売掛金残高100万円に対し、3%(3万円)を貸倒引当金として設定したいとします。
期末の貸倒引当金残高が0円であれば、3万円を設定します。

借方貸方
貸倒引当金繰入 30,000貸倒引当金30,000

「貸倒引当金繰入」は、費用の勘定科目です。
今回は、これが増えているため、ホームポジションである借方(左側)に記入します。

費用が増えたとき
損益計算書(P/L)

「貸倒引当金」は、資産のマイナスの勘定科目です。
今回は、これが増えているため、ホームポジションと反対側である貸方(右側)に記入します。

資産が減ったとき
貸借対照表(B/S)

もし、期末の貸倒引当金残高が既に5万円あったとします。設定したい金額が6万円(例えば売掛金200万円の3%)であれば、差額の1万円を追加で計上します

借方貸方
貸倒引当金繰入 10,000貸倒引当金10,000

「貸倒引当金繰入」は、費用の勘定科目です。
今回は、これが増えているため、ホームポジションである借方(左側)に記入します。

費用が増えたとき
損益計算書(P/L)

「貸倒引当金」は、資産のマイナスの勘定科目です。
今回は、これが増えているため、ホームポジションと反対側である貸方(右側)に記入します。

資産が減ったとき
貸借対照表(B/S)

逆に、設定したい金額(例えば6万円)よりも、貸倒引当金の残高(例えば8万円)の方が多い場合もあります。
この場合は、多すぎる2万円を減らす処理を行います。
この減らした分は収益となり、「貸倒引当金戻し入れ」という勘定科目を使います。

借方貸方
貸倒引当金20,000貸倒引当金戻し入れ20,000

「貸倒引当金」は、資産のマイナスの勘定科目です。
今回は、これが減っているため、ホームポジションである借方(左側)に記入します。

資産が増えたとき
貸借対照表(B/S)

「貸倒引当金戻し入れ」は、収益の勘定科目です。
今回は、これが増えているため、ホームポジションである貸方(右側)に記入します。

収益が増えたとき
損益計算書(P/L)

期中に実際に貸倒れが発生した場合の処理も重要です。
貸倒引当金を設定している場合は、まずその引当金を取り崩して貸倒れに充当します。

例えば、売掛金5,000円が回収不能になった場合、貸倒引当金が十分に設定されていれば(例えば3万円残高がある場合)、以下の仕訳を行います。

借方貸方
貸倒引当金5,000貸倒引当金戻し入れ5,000

「貸倒引当金」は、資産のマイナスの勘定科目です。
今回は、これが減っているため、ホームポジションである借方(左側)に記入します。

資産が増えたとき
貸借対照表(B/S)

「売掛金」は、資産の勘定科目です。
今回は、これが減っているため、ホームポジションの反対側である貸方(右側)に記入します。

資産が減ったとき
貸借対照表(B/S)

これは、前期末までに費用計上済みの引当金を取り崩す処理です。

しかし、貸倒引当金の残高を超える貸倒れが発生した場合や、当期に発生した売掛金など、まだ引当金が設定されていないものが貸倒れた場合は、その超過分または全額を貸倒損失として当期の費用に計上します。

例えば、売掛金5万円が貸倒れたが、貸倒引当金が3万円しかなかった場合、以下の仕訳となります。

借方貸方
貸倒引当金
貸倒損失
30,000
20,000
売掛金50,000

「貸倒引当金」は、資産のマイナスの勘定科目です。
今回は、これが減っているため、ホームポジションである借方(左側)に記入します。

資産が増えたとき

「貸倒損失」は、費用の勘定科目です。
今回は、これが増えているため、ホームポジションである借方(左側)に記入します。

費用が増えたとき
損益計算書(P/L)

「売掛金」は、資産の勘定科目です。
今回は、これが減っているため、ホームポジションの反対側である貸方(右側)に記入します。

資産が減ったとき
貸借対照表(B/S)

貸倒処理した債権の回収時の処理

一度貸倒れとして処理し、帳簿から消した債権が、後になって回収されることがあります。
この場合の処理は、その債権をいつ貸倒れとして処理したかによって異なります。

当期中に貸倒れとして処理し、当期中に現金などで回収できた場合は、貸倒れ処理を行った際の仕訳(貸倒損失または貸倒引当金の取り崩し)を逆仕訳することで取り消します。
例えば、当期に貸倒損失として処理した売掛金500円を現金で回収した場合、以下の仕訳を行います。

借方貸方
現金500貸倒損失500

「現金」は、資産の勘定科目です。
今回は、これが増えているため、ホームポジションである借方(左側)に記入します。

資産が増えたとき
貸借対照表(B/S)

「貸倒損失」は、費用の勘定科目です。
今回は、これが減っているため、ホームポジションの反対側である貸方(右側)に記入します。

費用が減ったとき
損益計算書(P/L)

前期以前に貸倒れとして処理した債権を、当期になって現金などで回収できた場合は、償却債権取立益という収益の勘定科目を使います。
これは、前期以前に費用として処理したものを、当期で直接取り消すことができないためです。

例えば、前期以前に貸倒れとして処理した売掛金500円を当期に現金で回収した場合、以下の仕訳を行います。

借方貸方
現金500償却債権取立益500

「現金」は、資産の勘定科目です。
今回は、これが増えているため、ホームポジションである借方(左側)に記入します。

資産が増えたとき
貸借対照表(B/S)

「貸倒損失」は、収益の勘定科目です。
今回は、これが増えているため、ホームポジションのである貸方(右側)に記入します。

収益が増えたとき
損益計算書(P/L)

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減価償却と貸倒引当金は、取引のパターンが多く、初めて学習する際には難しく感じるかもしれません。
しかし、これらの論点は簿記3級の試験で頻繁に出題されるため、避けては通れません。
まずは基本的な考え方をしっかりと理解することが大切です。

そして、理解を確実にするためには、たくさんの練習問題を解くことが最も効果的です。
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独学での簿記学習は根気が必要ですが、1つずつ論点をクリアしていく達成感も大きいものです。
焦らず、繰り返し学習を行い、合格を目指して頑張ってください!

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