
本社工場会計について、解説していきます!
簿記2級合格を目指して独学で勉強されている皆さん、こんにちは。
簿記2級の試験範囲の中でも、特に工業簿記は苦手意識を持つ方もいるかもしれません。
そして、工業簿記の論点の1つである「本社工場会計」は、その特殊な取引と仕訳で混乱しやすいポイントです。
しかし、ご安心ください。
本社工場会計の仕組みと基本的な考え方を理解すれば、決して難しい論点ではありません。
この記事では、本社工場会計の概要から簿記検定で問われるポイントまでをわかりやすく解説します。
この記事を通して、本社工場会計を得意分野にし、簿記2級合格をぐっと引き寄せましょう!
本社工場会計とは?なぜ「独立」させるの?
本社工場会計とは、文字通り本社と工場がそれぞれ独立した会計(経理)処理を行うことを指します。
通常、本社と工場が物理的に離れている、特に工場が地方の土地の安い場所に建てられている場合や、工場規模が大きい場合にこのような形態が取られます。
本社にはもちろん経理部がありますが、工場事務の内部にも経理部が置かれるのです。
つまり、経理部が2つあるイメージです。
では、なぜ会計を独立させるのでしょうか?
それは、それぞれの場所で行われる活動に関する経理業務を分担するためです。
具体的には、工場での生産活動(材料の仕入れ、賃金の支払い、経費の発生、製造原価の計算、製品の製造など)に関する仕訳は工場経理部が行い、本社に関すること(支店に関するものも含む)は本社経理部が行うのが一般的な分担です。
試験では、この本社と工場でそれぞれ会計処理を行っている状態を「工場会計が独立している場合」と表現します。
これは、工場に経理部がない場合(工場会計が独立していない場合)と対比されます。
工場に経理部がない場合は、すべての仕訳を本社の経理部が行うことになります。
本社工場会計は、大企業メーカーのイメージで捉えるとわかりやすいでしょう。
本社工場会計の要!勘定科目の使い分け
本社工場会計の最大のポイントは、本社経理部で使う勘定科目と、工場経理部で使う勘定科目が明確に分かれているという点です。
これは、簿記検定において特に重要なルールとなります。
具体的には、製造活動に直接関連する勘定科目は、工場経理部でしか使えないように設定されるのが一般的です。
以下の5つの勘定科目が例として見てみましょう。
- 材料
- 賃金
- 経費
- 製造間接費
- 仕掛品
これらの勘定科目は工場経理部のみが使用し、本社経理部は使用できません。
そして、これら以外の勘定科目は、本社経理部のみが使用できる本社専用の勘定科目となります。
では、本社と工場の間で取引が発生し、お互いの専用勘定科目が出てきた場合はどう処理するのでしょうか?
この場合、使えない勘定科目の代わりに相手先の名前を冠した勘定科目を使用します。
- 本社側では、工場専用の勘定科目を使う必要がある場合に「工場」勘定を使用。
- 工場側では、本社専用の勘定科目を使う必要がある場合に「本社」勘定を使用。
これらの「工場」勘定や「本社」勘定は、厳密な債権債務という意味合いよりも、相手側が処理すべき取引であることを示す「穴埋め」的な意味合いが強いといえます。
例えば、本社が材料を掛けで購入し、それが工場に運ばれるようなケースを考えてみましょう。
材料は工場勘定、買掛金は本社勘定です。
【本社側の仕訳】
工場で使うべき材料の分、工場に対して立替金が発生したと考え、「工場」勘定を使用します。
借方 | 貸方 | ||
工場 | XXX | 買掛金 | XXX |
【工場側の仕訳】
本社に対して立替の対応が発生したと考え、「本社」勘定を使用します。
借方 | 貸方 | ||
材料 | XXX | 本社 | XXX |
このように、お互いに使えない勘定科目が出現した際に、相手の勘定科目で処理するのが本社工場会計の基本的な考え方です。
経費勘定の扱いに注意!
経費に関連する仕訳は、試験では「経費」勘定を使う場合と使わない場合があるため注意が必要です。
「経費」勘定を使う場合、例えば水道光熱費5万円を現金で支払った工場全体の経費は、まず「経費」勘定で計上されます。
借方 | 貸方 | ||
経費 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
その後、その月の消費額を製造間接費に振り替える仕訳を行います。
借方 | 貸方 | ||
製造間接費 | 50,000 | 経費 | 50,000 |
しかし、試験「経費勘定を使わない」という指示で出題されることも多いです。
この場合、経費の支払い時に直接「製造間接費」勘定で処理します。
上記の例であれば、仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
製造間接費 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
この場合、「経費」勘定を経由しないため、消費(振替)の仕訳(上記の2つ目の仕訳)は不要になります。
減価償却費も経費の1つですが、同様に「経費」勘定を使わない場合は、発生時に直接「製造間接費」に計上します。
例えば、工場設備の減価償却費2万円を計上する場合、相手勘定は減価償却累計額(本社勘定)となるため、仕訳は以下の通りです。
【本社側の仕訳】
借方 | 貸方 | ||
工場 | 20,000 | 減価償却累計額 | 20,000 |
【工場側の仕訳】
借方 | 貸方 | ||
製造間接費 | 20,000 | 本社 | 20,000 |
製品勘定はどっち?
製品勘定については、本社で使う場合と工場で使う場合の両方の設定があり得るため、問題文の指示を必ず確認する必要があります。
(試験では、本社で使う設定になっていることが多いです。)
製品が完成した場合の仕訳は、通常(製品勘定を本社で使う場合)、工場では「仕掛品」が減少し、本社とのやり取りが発生したとして「本社」勘定を使用します。
本社では、「工場」とのやり取りが発生し、「製品」が増加したとして仕訳を行います。
【工場側の仕訳】
借方 | 貸方 | ||
本社 | XXX | 仕掛品 | XXX |
【本社側の仕訳】
借方 | 貸方 | ||
製品 | XXX | 工場 | XXX |
問題文で製品勘定を「工場で使う」という指示があった場合はどうなるでしょうか?
製品も仕掛品も工場専用の勘定科目となります。
この場合、工場で完成の仕訳を行い、本社では仕訳は発生しません。
【工場側の仕訳】
借方 | 貸方 | ||
製品 | XXX | 仕掛品 | XXX |
【本社側の仕訳】
なし
このように、製品勘定をどちらで使用するかで仕訳が大きく変わるため、問題文の指示をよく確認することが非常に重要です。
期末の調整!未達事項とは?
本社工場会計では、期末に会社全体の財務諸表を作成するために、本社と工場の勘定科目を集計します。
このとき、本社勘定と工場勘定の残高は、貸借逆で金額が一致するはずです。
これは、本社から見た工場への債権(工場勘定の借方残高)と、工場から見た本社への債務(本社勘定の貸方残高)が同額になることを意味します。
しかし、期末に未達事項(未処理事項)が存在すると、この残高が一致しないことがあります。
未達事項とは、本社と工場間の取引において、一方ではすでに処理が終わっている(仕訳済み)のに、相手方にはまだ情報が伝わっていない、または物(材料や製品など)が届いていない状態を指します。
例えば、本社が工場向けの材料を購入して工場に送ったとします。
本社は材料購入の仕訳と、それを工場へ送った仕訳(本社側の「工場」勘定を使った仕訳)を既に行っています。
しかし、期末になってもその材料がまだ工場に届いていない(工場側でまだ受け取っていない)場合、工場側はその材料を受け入れていないため、材料の受け入れや本社への債務発生に関する仕訳を行っていません。
これが未達事項です。
このような未達事項がある場合、本社勘定と工場勘定の残高を一致させるために、情報を受け取っていない側(未達になっている側)で必要な仕訳を追加で行います。
上記の例であれば、工場側で材料受け入れの仕訳を行う必要があります。
例1:本社が工場へ送った材料5,000円分が、期末時点で工場に未達
この未達事項は工場側で発生しています。
工場側では材料受け入れと本社への債務計上(本社勘定の貸方への計上)の仕訳を行っていません。
本社側は既に処理済みです。
【工場側で追加する仕訳】
借方 | 貸方 | ||
材料 | 5,000 | 本社 | 5,000 |
例2: 工場で完成した製品2,000円分を本社倉庫へ送ったが、期末時点で本社に未達
この未達事項は本社側で発生しています。
本社側では製品受け入れと工場への債権消滅に関する仕訳(工場勘定の貸方への計上)を行っていません。
工場側は製品完成と本社への債権計上(本社勘定の借方への計上)の仕訳を既に行っています。
【本社側で追加する仕訳】
借方 | 貸方 | ||
製品 | 2,000 | 工場 | 2,000 |
これらの未達事項に関する仕訳を行うことで、最終的に本社勘定と工場勘定の残高が一致し、相殺消去できる状態になります。
試験では、材料は本社が購入して工場に送り、製品は工場が製造して本社倉庫に納入する…という物理的な流れを前提とした未達事項が出題されることが多いです。
試験対策のポイント
本社工場会計の論点を攻略するためには、まず工業簿記全体の基本的な仕訳(材料の購入・消費、賃金の支払い・消費、経費の支払い、製造間接費の配賦、製品の完成、製品の販売など)がしっかりとできることが大前提です。
これができて初めて、本社と工場で仕訳を分けるという応用に進めます。
そして、本社工場会計特有のルールとして、勘定科目の使い分け(本社専用か工場専用か)と、使えない勘定科目が出てきた場合に「本社」勘定や「工場」勘定を使用する710という点を確実に理解しましょう。
特に、経費勘定を使うか使わないか、そして製品勘定を本社で使うか工場で使うかは、問題文の指示によって仕訳が変わる非常に重要なポイントです。
問題を解く際は、まずこれらの前提条件をしっかりと確認するようにしましょう。
また、未達事項の問題では、「どちら側で未達になっているか」を見抜くことが重要です。
情報が届いていない側で、その取引が発生したかのような追加の仕訳を行うことで未達を解消し、本社勘定と工場勘定の残高を一致させることができます。
独学での学習は大変な部分もありますが、1つずつ着実に理解を深めていけば必ず合格に近づけます。
基本的な仕訳から本社工場会計の応用、未達事項まで、繰り返し練習問題を解いて、これらの論点を自分のものにしてください。
応援しています!